なにをすればいいの?~若者達の悪戦苦闘~②【DTP集中訓練プログラム7期生報告集より】
『DTP集中訓練プログラム』とは?
この報告集は、厚生労働省の委託事業として実施している若年無業者等集中訓練プログラム(通称:集中訓練プログラム)の一環として制作されました。
このプログラムでは、地域若者サポートステーションに登録した若者が一定期間ともに活動し、コミュニケーションスキルを培ったり、生き方・働き方などについて模索しながら多様な学びを体験するものです。
今回は、この『DTP集中訓練プログラム』の第7期生の報告集※より、記事を一部抜粋し、5話連載でお送りします。
※「働くことへの不安や抵抗感」を感じる若者たちが、「将来に希望がありそうな気がする」と思えるようになった悪戦苦闘の日々や、若者たちが日ごろお世話になっている事業所の方々のインタビュー、OBたちの言葉が詰まった報告集は、現在『むさしの地域若者サポートステーション』にてご覧いただけます。
ワーカーズコープ東京中央事業本部
今までの働き方とは違った「協同労働」という働き方があると知り、ワーカーズコープという団体の東京中央事業本部を取材した。
「協同労働」という働き方
最終的な決定権が雇用主にあるこれまでの働き方に対して、働いている全員に決定権があり、話し合いを重ねて方針などを決定していくという働き方が協同労働である。話し合いの場の経験が少ない私たちは、話し合い、と言っても最後は多数決で決めていくのではという印象を持ってしまっていた。
しかし実際には、確かにそういう場合も存在するが、基本的には全会一致で決定していくという。それならば、事業所内で多数派を得るために派閥を作るなどする必要はなく、日常的にぎくしゃくした関係になりにくいのかもしれないと思った。ある事業所では、話し合いは定期的に開かれ、そこで今後の方針の検討や新規事業などの提案が行われる。何か提案があったときは、どうしたらそれを実現できるかと意識的に考え、その上で話し合いがなされていく。またトライ&エラーで徐々に改善しながら試していき、実現に向けた話し合いをしていくこともある。主体性や発言した内容が否定されにくい環境が追及されていて、自分から行動を起こしたり、発言したりしやすいように試行錯誤しながら仕事が作られていく印象を受けた。また話し合いの場やそれ以外でも話しにくいと思っている人に対しても、個別に打ち合わせをしたりしている事業所もあり、働き手に応じて柔軟に対応していける働き方は面白いなと思った。
今までは、トップダウン型の働き方しか知らず、こんな働き方もあるのだと知って驚いた。しかし、全会一致にもっていくまでの過程や、実際に試したりしながら話し合いをしていくのは多くのエネルギーが必要で、余程それがやりたいと思っている人でないと実現していくのはとても難しいのではないかと不安に思ってしまうのが本音だ。そんな感覚の人が、入る段階で出資やのち、に増資を要請されると、なかなかハードルが高いなと感じるのではないだろうか。
ワーカーズコープという団体と協同労働法
今回取材をしたのは、協同労働を実践しているワーカーズコープという団体だ。仕事おこしと地域づくりをする協同組合で、出資金は一口5万円。そこから各自の状況に応じて増資をしてくこともできる。北海道から沖縄まで400か所くらいの事業所がある。
基本的に地域の課題や生活の困りごと、働いている人自身の気づきから仕事が生まれてくる。若者支援事業の地域若者サポートステーション(厚生労働省委託事業)や、保育園やデイサービスなどの福祉事業も多い。もちろん福利厚生などは一般的な企業とさほど変わらずに運営されている。最初は病院の清掃から始まったが、最近は環境問題にも取り組んでおり、長年の清掃の経験から環境や人にやさしい洗剤などを独自に開発していたり、廃油を原料としたバイオディーゼル燃料を作ったりする仕事がある。
ワーカーズコープで働くには、「よいしごとステーション」という求人情報サイトにから申し込む方法や、ワーカーズコープの理念を紹介する講習から入っていくことができる。
1971年に現在の前身である「事業団」ができ、2007年頃から協同組合法を作ろうという運動が始まったが、ついに2020年12月4日に労働者協同組合法案が全会一致で可決・成立した。この法案が可決されたことにより、地域に根付いた働き方のできることや、地域の問題を自分たちで解決できることなどが期待されている。こうした取り組みが法律によって支えられ広がっていくことは、悪くないと思う。
こみっとプレイス
豊島区雑司ヶ谷にある協同労働の現場「こみっとプレイス」はサポステ出身者が立ち上げにかかわった現場だと聞き、そのメンバーの、村上さんを取材した。
こみっとプレイスとはB型就労支援施設で、主にカフェをはじめとした飲食事業とサロンなどの居場所事業を行なっている。居場所事業では手芸教室などのイベントを開催している。地域の関わりを重要視していて区のイベントや児童館などの既存のコミュニティと関係づくりをしている。こみっとプレイスでは、常勤と非常勤がいる。非常勤の人は1日4時間程度の人もいて、20代から年配の方まで幅広い年齢層の方たちが働いている。一般的な雇用形態では上下関係がはっきりとしており、正規職員が上、非正規職員が下となっているが、協同労働では全員が対等という考えがあり、こみっとプレイスでもこの考えが浸透しているようだ。
話し合いが浸透している職場
協同労働は話し合いを重視した働き方だというが、どういったことを話し合い、またどういった話し合いの仕方や合意形成をしているのかを聞いた。こみっとプレイスで行われている月1回の話し合いでは、主に事業内容の共有やイベントの企画などを行っている。イベントの企画では、意見を否定されることはあまりなく、どうやったら実現できるかを模索してく方向で話し合いをしていくようにしているそうだ。
話し合いをするより、多数決で決めた方が手っ取り早いのではと、思うところもあったが、よっぽどのことがない限り多数決を取ることはなく、基本的には話し合いで合意形成をしていくという。ある程度目的や方針が事前に定まってないと話し合いだけで解決するのは難しいのではないかと思うが、こみっとプレイスでは、いろいろな人に来てほしい、安心して働ける場所を作りたいといった方針がスタッフや利用者の方たちにも浸透しているから話し合いで決められることが多いのではないだろうかと思った。
方針や理念の共有が協同労動の秘訣?
こみっとプレイスでは、事業を始める準備段階から何回も話し合いを重ねてきている。相手の意見を否定せずにどうやったら出てきた案を実現できるか、安心して楽しく働ける職場づくり、利用者さんが落ち着けるような居場所づくりなどの考えを浸透させるための下地が作られているように感じた。
資格がある、経験のある人にリーダー的な役割を振り分けてはいるが、やりたい仕事があればそれをやりたい人に任せる形で仕事を割り振っていけるようにしている。例えばコーヒーの淹れ方講座をやりたいということであればそれをやりたい人がやるという感じである。しかし、その一人だけに任せてしまうのではなく、それ以外の人が足りない部分をフォローしていく。
このように、互いにフォローし合う姿勢や興味・関心に基づいて仕事を割り振っていけるようにしているところは非常に柔軟な対応がなされていると感じ、良いなと思った。中央事業本部で話を聞いた際には話し合いには多くのエネルギーがいるのではないかと感じたが、こみっとプレイスの村上さんの話を聞いている感じでは、そこまで多くのエネルギーが必要ではないと思った。それはこみっとプレイスの環境、方針や理念を確認してきていることが影響しているのではないかと思った。
今回の取材を通して私は、仕事は耐え忍ぶばかりではなく自己実現や、仕事の仕方は色々あり、仕事の環境も柔軟に変えていける場所もあることを知ることが出来た。
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