ムサシノPeople interview vol.1③最終話
ムサシノPeople interview
私たちが暮らしている地域には、人や街を大切に思いながら日々活躍している方々がたくさんいらっしゃいます。協同ネットに集い活動している若者たちも、そういった地域の方々に日頃から大変お世話になっています。
そんな若者たちが、日頃お世話になっている地域の方々のこれまでの人生にフォーカスしたお話を、インタビューでお聞きすることで、再び出会い直し、たくさんの刺激を受け、「人生について考え学びたい!そしてもっともっと知り合いになりたい!」という、ちょっぴり図々しい連載企画です。
ムサシノPeople interview vol.1 ③最終話
社会福祉法人武蔵野 特別養護老人ホーム ゆとりえ
施設長 都賀田 一馬(つがた かずま)さん
ABOUT / ゆとりえ
社会福祉法人武蔵野 特別養護老人ホーム「ゆとりえ」には、これまで協同ネットに集う多くの若者たちが職場体験実習という形で大変お世話になってきました。現在も、2名の若者がシーツ交換のアルバイトスタッフとして働いています。そんな若者たちを理解し、いつも温かく見守ってくれているのが施設長の都賀田さんです。
若者(インタビュアー)
Aさん:風のすみかでのベーカリー研修を経て、現在カフェ勤務
Bさん: 風のすみかでのベーカリー研修を経て、8月より事務職で就職
Cさん:風のすみかでのベーカリー研修(7月スタート)に参加中
スタッフ(インタビュアー)
廣瀬、丸山
いろんな経験を面白がってほしい。心が動かないと自分って変わらないから
→ 最後に、サポステのメンバーがシーツ交換の仕事で働いていますが、若者について感じていらっしゃることやメッセージをお願いします。
都賀田 自分もかつて若者だったし。時代も違うし、生きてきた経験も違うから。私がこうだったからあなたもこうしなよっていうのはない。ただその、いろんな経験を面白がってもらいたい。
ここで働いている人たちも20代が中心なんですよ。それで、毎年今年の目標とか、仕事の目標とか書いてもらうの。
そのときに「こんな資格取りたいです」っていうのが多いんだけど、それは大事なんだけど。「今年自分の心が動くようなことでどんな経験したいっていうのはある?」っていうのを聞きます。「これをやったら、たぶん来年の自分は違うって言えるような、仕事じゃない何かある?」って。結構ある人が多かったりして安心するんだけど。
そういう事は自分から見つけられる人もいれば、縁が大事だったりとか。結構目の前に一杯転がって来ているわけよ。それを面白いと思うか縁だと思うか、拾うか拾わないか、やるかやらないか、みたいなとこがすごい大きくて。
この世の中いっぱい面白いものはあるけど、最初は面白いかどうかも分からないけど、「やってみる」っていうのも含めて、なんか今まで知らなかったことに触れるとか、心が動かないと自分って変わらないんです。
そのときにやらなきゃ何も起きない、でそのときに一年後の自分を考えたら、まぁやった方がいいな、ってなる。明らかに今の自分とはそれだけで違う。
だから例えばシーツ交換だって、仕事で来てもらっているけど、たぶんそういうチャンスを誰かが用意してくれなければ、することは多分なかった。
それが面白いって思ってもらえるか、やりがいを感じてもらえるか、人の役に立っているっていう実感を持ってもらえるかは分かんないけど、そういう事に出会えたっていうのは、たぶんゼロじゃないから。それでいい気がします。
→都賀田さんが面白がってると、他の方々も面白がれるんですね。
都賀田 でもまあ、そんな人ばっかりじゃない。ここに「ゆとりえ文庫」って作った(笑)。
コロナの影響で図書館も閉まっているし。新しい職員来ても飲み会もできないし、みんなどんな本読んでいるんだろうと思って。
みんな自分が面白いと思った本持ち寄って文庫作ろうよって言って呼びかけて。
おもしろがってくれる人は何人かいて、「こんな本が好きなんです」なんて、恥ずかしくて言いにくいかもしれないから、こっそり置いていく。借りていったのは何借りたか書いて、返す時にちっちゃいコメント書いてって。そんな仕掛けはする。でも誰も反応してくれなかったらどうしようと思って(笑)。
最初ずらっと置いたらおけなくなるから少しだけ持ってきて、2・3日したらまた少しだけ足して。
→賛同がなくても自分一人でもちょっとやってみようとするところがすごいですね。小さくてもできることをやっていると全体の空気というか感覚が変わってくるのかもしれませんね。
都賀田 一応、事務所にいる人たちに「こんなことやったらみんなどう?」聞いたりはする。それで実際にやったら「本当にやったんですか」とか言われたりして(笑)。
反応があったりする。なんかやっちゃう人だって思われている。ちょっとだけ(笑)たぶんそんなふうに思われてはいる。
→今日は、楽しいお話をありがとうございました。とても心に残る話が多くてもっと聞いてみたい、深堀りしたいと思いました。多くの若者に聴いてもらいたいインタビューでした。ありがとうございました。
後日、都賀田さんから届いたメール
先日はありがとうございました。
みんなインタビューに来るくらいなので、ひとつ乗り越えて次に進む意欲が見えて頼もしかったです。たくさん話をさせてもらいましたが、ひとつだけ言いそびれたことが気になって引きずっているのでお伝えします。機会があればみんなにもお伝え下さい。
学生の頃の話で、自分がカラッポだと感じて苦しんだ話をしましたが、これは後で(10年以上後)思いましたが、本当はカラッポなんかじゃなくて、子どもの頃野山で遊んだことも、部活しかしなかったことも、楽しかったことも上手くいかなかったことも、ああすれば良かったと後悔することも、みんなまとめてそれが確かな自分を作っていたんです。
そんな自分をちゃんと認めてあげて受け止めてあげられたらああは苦しまなかっただろうし、作る作品も違ったんだろうなと思います。自分の芯になるものがあったのに、それを言葉に出来ていなかったことと、他の人の経験と比較して自分にないものばかり見ていたために気づけなかったんです。でもあの時は見えなかっただろうなぁ。
気づいていたら今の自分とは違う人生だったかもしれないけど、全然後悔していない。でも、あの時誰かがそれを教えてくれたらなぁ(それでも受け止められなかったでしょうけど)と思うことはあります。最近たまたま観た映画「羊と鋼の森」の最後に先輩が主人公に「大丈夫、あなたは山に暮らして、森に育ててもらったんですから」というセリフがあって、これが自分に重なって、なんだかやけにうなずけるところだったんです。そんなことも思い出して、長くなりましたが補足しておきます。カラッポを埋めようと苦しんだけど、そうじゃなかった。確かな自分に気づけなかった。認めてあげられなかっただけだった。
みんなと話すことでまたひとつ自分を言語化できて整理できて自分の芯がしっかりしたように思います。だからこういうご縁は大事にしたくなるんですよね。
ありがとうございました。
ほとんど独り言でした。ああスッキリ。
都賀田一馬
インタビューを終えて
若者感想
Aさん
初めにインタビュアーのお誘いを受けた時、介護の仕事や、地域の活動でたくさんの人と関わっている話が聞けるのかな、と思っていました。
実際に都賀田さんにお会いしてインタビューを始めると、答えて下さった話のどれもが、自分にも共感できるような、でも経験したことないような、そんな感覚になるものでした。彫刻の作品づくりを通して、自分は器用だっただけで、何もないということを突き付けられた苦しい時代の話は、私自身の過去や今のことを考えさせられました。
過去に、友人たちがどんどん先へ進んでいくのに対し、自分はなんだかふわふわしていて、社会に馴染めなかったこと。今でも、人と関わる中で、上手く自己表現できず空回りして落ち込んだり、絶望してしまうこと。多くの人と関わったり、何かに真剣に取り組むことは、楽しいことよりも、今まで知らなかった自分と向き合う作業の繰り返しで、苦しく大変なことが多く感じます。
それでも、都賀田さんが介護の仕事や地域活動を通して、たくさんの人に出会い様々な価値観に触れたことで、過去の自分も認め、今の居場所も見つけられたように、私も人とのつながりを通して、少しずつ成長していきたいと思いました。
また、都賀田さんの地域の活動が、福祉の仕事として良い街づくりをしたい、というところにつながって都賀田さんやその周りの方々の間で巡り巡っている感じが素敵だな、と思いました。
施設として、目標を設定しないで個人の能力を尊重し、なるべく居心地の良い職場づくりを目指しているという話は、色々な人の人生に関わる仕事だからこそ、良いなと思いました。
私は2年前すみかでの研修に参加していました。その時から今まで、振り返ってみると、同じような事で悩んだり躓いてジタバタしています。それでも、自分で自分を見捨てないで、誰かしらに頼ってみたり、思わぬ励ましがあったりして、なんとかやっているような気がします。
今回のインタビューも、その1つでした。
そして、何より都賀田さんが私たちの質問にまっすぐに答えて下さり、後日追加メールで誠実に対応してくださったことが、すごく嬉しかったです。ありがとうございました。
Bさん
今回の都賀田さんへのインタビューは、一つ一つのお話の密度がとても濃く、まとめとして感想を書いている今も、どこの部分を取り上げようか迷うほどですが、ここでは「自分の中のセンサー」と、それを形作った「経験」について、私が考えたことを書こうと思います。
都賀田さんは福祉の仕事を始めたころ、仕事についての知識が無い中で「自分だったらこういうふうにしてもらったら気持ち良いんじゃないか」あるいは「こうされたら気持ち悪いんじゃないか」といったことを感じる「センサー」を頼りに仕事をしていたと仰っていました。このセンサーは少年時代のことや、20代で苦しんだことも含めて、それまでの経験によって作られてきたもので、こうした経験という蓄積が自分の中にあるから、全く新しい仕事に向かう時でも大きな不安はないというお話をしてくださいました。
このお話は、非常に印象に残りました。なぜなら、私自身も今度新しい職場で働くことが決まったのですが、全くやったことの無い仕事をするという事に、それほど大きな不安は抱いていないからです。
もちろん専門的な知識は無く、最初は右も左も分からずに苦労するだろうとは思うのですが、それと同時にこの1年間「風のすみか」で研修をしてきた経験があり、その中で曖昧ながらも「働く感覚」を掴んできたことで、新しい職場で何もできず途方に暮れるというようなことは無いのではないか、と思えるからです。
この自分が経験を通じて掴みつつある「働く感覚」というのが、都賀田さんの仰っていた「センサー」とも重なるのではないかと思い、非常に印象に残りました。
また、こうしたセンサーを形作ってきたものとして、都賀田さんが少年時代から青年期に至るまでの様々な経験を挙げられたのも印象的でした。
というのも、私自身は特に就職活動中、ここ1年間の「働いた」経験を重視し、それ以前の学生時代の経験などについてはあまり重きを置いていなかったからです。学生時代にも部活や課外活動、またプライベートでの様々な人との関わりがありましたが、なにか華々しい成果を挙げたわけでもなく、特に誇れるものとも思っていませんでした。
しかし、インタビューでこのお話を伺った後、そのなかで自分が経験してきたことを再確認しました。自分の学生時代の経験は決して無意味なものではなく、確実に今の自分を形作るものの一つなんだと思うようになりました。
このように「センサー」と「経験」という一つのテーマをとっても、都賀田さんがご自身の経験を元にお話ししてくださった内容はとても共感できて、自分の中にスッと入ってくる感じがあり、またそれをもとにして、自分自身のこれまでについて改めて考えるきっかけとなりました。
Cさん
文字起こしされたものを通しで読んでみて改めて感じたことは、都賀田さんの誠実な人柄です。自分の気持ちや考えを、上手いこと言葉に乗せられるのは、すごいことだと思うし、ずっとそれをやってきたのかなぁ、と思いました。
翻って、僕自身が「風のすみか」研修の中なんかだと微妙なニュアンスを伝えるときに、大分(スタッフの)廣瀬さんに肩代わりしてもらいながらやっているところがあると思っていて、やっぱり言葉にすることをサボっちゃいけないのかな、と身が引き締まる思いでした。
そして都賀田さん自身が、話しながら「他者と接していく中で自分も空っぽではないのだろうか亅と最初に話していたことを修正していくの見て、他者と接していくことを恐れる気持ちを否定したくないけど、それはそれとしてコミュニケートする意志は大切なんだよな、って思いました。
そしてそれは、障害者であろうと高齢者であろうと健常者であろうと、変わらないということも忘れてはいけないと思いました。
最後に、色々と突っ込んだ質問もしてしまったけど、率直に答えてくださって、単純に嬉しかったです。
ありがとうございました!
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