コミュニティベーカリー 風のすみか 原材料一つ一つの物語 ①


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「コミュニティーベーカリー 風のすみか」では、すべてのパンに天然酵母の“AKO酵母”を使用して、保存料・添加物は一切使用せず、ゆっくり発酵させ、手間を惜しまず美味しいパンをつくることを大切にしています。

(コミュニティベーカリー風のすみかHPより抜粋)



ジブリの森美術館にほど近い、協同ネット法人本部一階には「コミュニティベーカリー風のすみか」というパン屋があります。

「赤ちゃんからご年配の方まで、毎日のように食べられるパンを食卓に届けられるように」というコンセプトで、すべてに「天然酵母」「国産小麦」「国産のライ麦」「無農薬野菜をつかった自家製の具材」を使用しているこのパン屋には、連日小さなお子さん連れのお母さんや多くの家族連れが訪れ賑わっています。


地域のお宅やお店、保育園などにパンを配達もし、地域の中で安心安全なパンを中心に人が繋がれるパン屋。『コミュニティベーカリー』というネーミングの通りですが、実は、この名前には他にも理由があります。




「風のすみか」は、2004年に「若者が働く体験ができる場所をつくりたい」という呼びかけにより、地域や全国から想いに賛同していただいた方々から協賛金を募り設立しました。ですから、厨房では若者やスタッフの他に、今でも地域のお母さんたちが協力し、あんこやカレーなど中の具材も全て手作りしてくれています。


若者たちはここで働くことで、働く仲間や職人、スタッフの他に、地域のお母さんやお客さん、保育園の子どもたちなど、多くの地域の人たちと出会います。

安心安全なパンを通じて多くの人たちに出会いながら、自分の仕事がちゃんと人に届く経験を積み重ね「今の自分で働いていける」という気持ちが持てるようになっていきます。




すべてに「天然酵母」「国産小麦」「国産のライ麦」「無農薬野菜」というこだわり


「風のすみか」は、今年で設立16年となりますが、同じ法人で働く私自身、「風のすみか」が「安心安全な材料だけをつかっているパン屋」という認識はありながらも、一つ一つの材料に隠された物語までは正直知りませんでした。


今回のインタビューにより、ここで働く若者たちにとって、この物語の一つ一つや職人のこだわりにパンを通じて毎日触れること自体もしっかり教育力に繋がっているのだと考えるに至りました。


今回は、法人が運営する「コミュニティベーカリー風のすみか」の工房長である矢口と、若者たちの研修を担当している廣瀬にインタビューを行います。




天然酵母へのこだわり



丸山:『すべて天然酵母で美味しいパンをつくっています』というキャッチフレーズを「風のすみか」では発信していますが、そのこだわりを教えてください。


矢口:「風のすみか」ではすべてのパンが天然酵母(ACO酵母)で作られている。

天然酵母の中でも癖が少ない「ACO酵母」を使うことで、すべての種類のパンを天然酵母で作ることができている。実は、すべて天然酵母で作っているパン屋というのは当時から珍しい。天然酵母とイーストを混ぜて売っている店も実状としてある。

天然酵母は「17時間発酵して…」と、とにかく時間と手間がかかる。(パンの販売個数は天気に左右されてしまうため)一週間分の天気を予測して、数を決め作っている。


一方で、扱いやすく、直ぐ発酵するイーストは焼きたてが命。焼きたてが美味く、そのあとは味がどんどん落ちていく。だから、どんどん焼き、焼きたてを店に並べ…という売り方。余ると大量に捨ててしまう。そのことにより「フードロス」が生まれるが、それ自体どうなのか?と思ってしまう。


天然酵母は、売切れればそれで店は終了。売り切るだけ作る。もし余っても、風味が持続するので、翌日でもおいしいパンが食べられる。


だからすべて天然酵母こだわるし、イーストのパン屋とは全く別物。


(予定外の雨の日は「風のすみか」よりスタッフ向けにパンの出前販売がある。前日焼きも法人内で購入可能なため、協同ネットではずいぶん前から「フードロス」をなくす取り組みが行われている)




全種類国産小麦化のきっかけ

(2017年4月1日~全種類のパンの国産化がスタート)



丸山 なぜすべての小麦を国産小麦にしようと思ったのでしょうか?


矢口:もともと「風のすみか」では、国産小麦でハード系のパンのみを焼いていたんだよね。当時使っていた国産小麦の粉は元々扱いづらくて味もあまり良くなかったから、なかなか売れず外麦のシェアが増えつつあった。

その頃、研修生を経験した当時職人として働いていたスタッフ二人が「ハード系のパンをもっとおいしくしたい」と一年間、国産小麦を探して試作を毎日毎日繰り返しつくり、猛研究を始めた。

その研究の成果で…「これならおいしいし、他の柔らかい総菜パンなども作れるかもしれない」そういう小麦にやっと出会えたんだよね。それが現在つかっている「春よ恋」との出会いだった。まずはそれが一番大きなきっかけかな。


第二に、以前も(ポストハーベストを行わず)安心だと言われているカナダ産のかなり質の高い小麦を使っていた。でもその小麦もいくらたってもカビないんだよね…そういう事実がとても不思議に感じて、安全性に疑問を感じるようになっていた。


第三に、ニローネ(相模原市韮尾根にある法人運営の農場)で作っている小麦「ゆめしほう」を、今はまだ量は作れないけれど「風のすみか」でつくるすべてのパンに混ぜられるようにるためにも、「すべての種類のパンの国産小麦化」にこだわりたかった。


あとは、やっぱりアメリカが日本に小麦を売りたくて持ち込んだ小麦粉やパンの文化への対抗心もあるよね。だって、外麦とイースト菌の何を食べさせられているのかわからないものよりも、より安全で安心な意味のあるパンにしたいじゃない。


廣瀬:外国の小麦は、日本に輸送されるまでにカビが生えないように防腐剤を入れている。国産小麦はそれがない分安全だろうと言われている。



「ポストハーベスト」と外麦への不安



矢口:刈り取った後に農薬を撒いていたのが「ポストハーベスト」。しかもそれは発がん性の高い薬品を撒いていた。

その後も、植わっている刈り取る前の小麦に農薬を撒いてという話もある。結局、残留農薬の残留値が…という怖さがある。

それでも、「風のすみか」では外麦の中でもこだわってなるべく安全性が高いと言われる、質の高い小麦を使っていたが。それでもいつも不安が払しょくできなかった。



国産小麦「春よ恋」と「ゆめしほう」



矢口:因みに、「春よ恋」というのは、日本でパン用の国産小麦の開発をして生まれた小麦。「はるゆたか」の品種改良版


丸山:(法人の運営する農場「ニローネ」でつくる)「ゆめしほう」と「春よ恋」の違いは?


矢口:ニローネではパン用小麦として茨城で開発された「ゆめしほう」を作っている。なぜ、「ニローネ」でも「風のすみか」でも「ゆめしほう」にこだわっているか?

「ゆめしほう」はいわゆる「純国産」なんだよ。「春よ恋」は品種改良の時点で外麦の要素が少し入っている。だから「ゆめしほう」にこだわりたいんだよね。




「春よ恋」との出会いと食パンづくり



矢口:国産小麦は吸水性が悪く、重たく膨らまない。べちゃっと成形しずらい。すべての種類のパンを国産小麦でつくるっていうのは、(国産小麦が)とても扱いづらく難しいと思っていた。

それでも「春よ恋」で菓子パンが何とかつくれることがわかり、これで「いける!」と思った。


問題が、「食パン」だった。できるまでには一年間開発時間を要した。


元々外麦でおいしい食パンがうちでは既に出来上がっていた。小麦が変わるということは本当に大変なこと。実は、以前も一度、小麦を変えなければいけないということがあったが、その時も何度も何種類も試して試作を繰り返し本当に大変な思いをした。


小麦の種類だけでなく、小麦の配合も水の配合も何度も何度も繰り返し試す。何万種類と配合を変えながら、毎日試作を行い食パン開発を繰り返した。

その結果、食パンの小麦は、食パン以外の小麦と少し違う種類の(春よ恋のブレンド)国産小麦を使っている。

味もね。小麦や配合変えると全然違うから。本当に大変だった。いくらおいしくても真逆の味だとお客さんが「ん?」となってしまう。

だから、今までのうちのおいしい味に近づけるための試作を毎日毎日何度も「これじゃ味が違う」と繰り返してやっとの思いでできた。




続きは、コミュニティベーカリー 風のすみか 原材料一つ一つの物語 ②へ

Youth Lab

1974年より、子どもたちの学習支援や不登校児童の居場所づくり、 若者の社会参加や就労支援を行ってきた、 文化学習協同ネットワーク(認定NPO)と若者たちが出会う人や世界について、 そして、若者たちが自分自身を再発見するための学びの時間について発信していきたいと思います。