ムサシノPeople interview vol.1①


ムサシノPeople interview  


私たちが暮らしている地域には、人や街を大切に思いながら日々活躍している方々がたくさんいらっしゃいます。協同ネットに集い活動している若者たちも、そういった地域の方々に日頃から大変お世話になっています。

そんな若者たちが、日頃お世話になっている地域の方々のこれまでの人生にフォーカスしたお話を、インタビューでお聞きすることで、再び出会い直し、たくさんの刺激を受け、「人生について考え学びたい!そしてもっともっと知り合いになりたい!」という、ちょっぴり図々しい連載企画です。


ムサシノPeople interview  vol.1 ①

社会福祉法人武蔵野 特別養護老人ホーム ゆとりえ

施設長 都賀田 一馬(つがた かずま)さん




ABOUT  / ゆとりえ

社会福祉法人武蔵野 特別養護老人ホーム「ゆとりえ」には、これまで協同ネットに集う多くの若者たちが職場体験実習という形で大変お世話になってきました。現在も、2名の若者がシーツ交換のアルバイトスタッフとして働いています。そんな若者たちを理解し、いつも温かく見守ってくれているのが施設長の都賀田さんです。





若者(インタビュアー)

Aさん:風のすみかでのベーカリー研修を経て、現在カフェ勤務

Bさん: 風のすみかでのベーカリー研修を経て、8月より事務職で就職

Cさん:風のすみかでのベーカリー研修(7月スタート)に参加中


スタッフ(インタビュアー)

廣瀬、丸山




彫刻の世界から福祉の世界へ


―初めに、今の福祉の仕事に就くまでのお話をお聞かせください。


都賀田 30歳の時に、ここが出来る時に初めて福祉の仕事、特別養護老人ホームの介護員として雇ってもらったんです。それまでは彫刻をずっとやっていて。それに挫折して、もうここでやめようと思ったのが29歳の時で。その時結婚して子どももいたんですけど。(彫刻を)やめてどうやって生きていこうか考えた時に、福祉の仕事に就きました。

ここに至るまでの大学時代の苦しさ、半分ひきこもっちゃってた時もあるんですけど。良く生きてたなって思うんです。



ひきこもりだった学生時代


―彫刻をやっていたという大学時代の話をもう少し聞かせてください。


都賀田 作品を作り始めたのは大学に入ってからなんですけど、そうするとそこで自分は初めて空っぽだったことに気が付いた。作品を作るって自分を出していくんですよ。

高校の時って部活しかしてなかった。ボート部で、それしかやってなかった。大学院にも行ったんですけど、院の2年間は地獄だったけどね。

最終的には自分の卒業制作作ったから卒業できましたけど、めちゃくちゃ苦しい時期だった。自分がわかんない、作れそうになくて。ほんとによく生きてたと思う。

いつ死んでもおかしくなかったなって思います、そんな感じ。



→どんなことが苦しかったですか


都賀田 作品を作る時って自分をみせるわけよ。批判もされるし、それを面白いと思ってくれる人もいる。何か映画でも音楽でも作品でも人とのかかわりでも、心が動いたときが楽しい。得られるものがあるから・・・そういうものを作りたい。

だけど何が出来るかが全く分からなくなって。

大学を25歳で出て、週4日くらい働いて週3日くらい制作して・・・て30近くまでやっていて。だけど子どももできてるわけ。

だけど、これは自分がすべてを犠牲にしてでもこの仕事に打ち込んでやれるかって時に、それは不可能だと思ってあきらめた。

でもそこまでの苦しんだ時期とか、それこそ部活に一生懸命だったこととか、自分に向き合ったこととか、っていうのはそれが財産。それが自分のベースで、今までやれたのは、それまでの色々な経験があったから。

っていう感じです。



福祉の世界で自分の価値観が変わった


→ご自身の気持ちの変化に気が付いたエピソードのようなものはありますか。


都賀田 もともと不器用だし人見知り。どっちかっていうと20代のころは自分の価値観はなんていうか「白か黒か」「ゼロか100か」「勝つか負けるか」って価値観だった。

最悪だよね。で、段々丸くなってきて。

いろんな多様性とか考え方とか、いろんな人生があるっていうのを受け止められるようになってきて。福祉の世界にきて、たぶん一番よかったのは、とにかくありとあらゆるいろんな人と接するわけよ。長い人生を送ってきた凄まじく(価値観や考え方が)違う人たち、(見方によっては)めちゃくちゃな人生を送ってきた人たちも。

どんな人生を生きてきた人でも、何でそうなったか分からないけど、そうでしか生きられなかった選択と人生を尊重するっていう風にしていると、段々自分のその狭い価値観が消えていくというか、変わってきたんだなって。



福祉の仕事の楽しさと辛さ


→仕事をしていて楽しいなって感じる瞬間と、逆に辛いなあって時はどんな時でしょうか。


都賀田 楽しいって思えるのは、高齢者の生活は、それまでは一人で何とかしていたんだけど、それが出来なくなる現実に向き合うときってあって。でも自分たちで、自分たちの生きたいように生きたいって思った時に、提案をして、新しい生活を手助けできることが出来て。「生活できる、ありがとう」って言われたら・・・もうそれは最高ですよ。

(一方で)福祉はいろんな人と接するので、人間性そのものを否定されることもあれば、こちらの思いが伝わらない人もいる。それでも、それをこちらもすべて受け止めながら、少しでも良くなるようにっていうのは結構苦しいし、それでメンタルつぶれる人もいる。

あと施設長的には、若い人たちが苦しむ時期があって・・・

皆さんも苦しんだと思うんだけど。この仕事の苦しいことの一番は「自分とは何か」っていうのが突き付けられる。感情をコントロールしきれない自分がいて絶望したりとか、そのストレスからけっこう続けられなくなる人がいて・・・

そんな職員と話す時間をつくったりするんだけど、最終的にはいろんな辞め方をする人がいる。少なくとも「ここにいた時間は絶対無駄になんない」っていうのをちゃんとわかってもらいたい・・・結構そういう時がきついかな。



安心してもらえるように普通に接する


→この施設は認知症の方がいると思うんですけど、そういう方たちとどうやってコミュニケーションをとったらいいですか?


都賀田 認知症って一言でいうんだけど、人さまざま。状況も症状も。で、そういう人と接する時に特別なことって実はあんまりない。普通に接する。普通に皆さんと接するように、普通に接するのが基本。で、そこで気を付けるのが相手に安心してもらうこと。不安にさせないことってだけ。

だから例えば同じことを繰り返されて「さっき言ったわよ」って言われたら、その人「そんなことないと思うけど」って不安になっちゃうわけよ。それはいちいち指摘したって何にも意味がないの。だから同じことでも何度でもいっぱい話すの。同じように答えてあげると、「あっそうなの」って笑顔になる。

人生の最終段階にあるとしたら、残りの人生の何年間を少しでも楽しいって思って時間を過ごしてほしい。

高齢者ってどこか不安なわけよ。さっきできたことが出来なくなったり、今日転んだらどうしよう・・・そんなことばっかりが毎日起きるのが当たり前。その中でどうやったら不安を取り除けるか、不安じゃない時間をつくってあげれるかっていうのがやっぱり一番大事。だから普通に接する、普通に話す。で、それに対する反応によって、ちょっと考えて配慮するっていう感じ。


介護は人の生きる尊厳を守る仕事


→世の中で、障害者や高齢者の施設で、職員の人が利用している人に暴力をふるってしまう事件があるじゃないですか。それについて意見を聞かせてもらえませんか?


都賀田 私たちの仕事って、その人の生きる尊厳を守ることなんです。虐待をしちゃった人は、多分それを忘れちゃってるんだろうなと思う。「その人の生きる尊厳を守るのが仕事」ではなくて、「その人のトイレの介助をしてあげる」「着替えの介助をしてあげる」「ご飯の介助をしてあげる」っていうのが目的になっちゃってる。

本当は、トイレも食事もお風呂も着替えも、その人が本当は自分でやりたいこと、その人が人間として生きるために必要なことを、自分じゃ出来ないけど手伝ってもらうことで出来る。それがその人の生きる尊厳を守ることになるんだけど。

トイレの介助とか、食事の介助とかはその手段でしかない。それが目的、それが自分の仕事だと思ったら「なんでこっちはトイレ介助してあげようと思ってるのに・・・こいつは言うこと聞かないんだ、手を振り払うんだ」ってなる。

だけど、そうじゃない。自分が何をしようとしてるのかっていったら、その人そのものの生きる尊厳を守るため。だからそこだけは絶対忘れないでっていうのは、皆思ってるし・・・





苦しいときは苦しいって言っていい


都賀田 ただ、分かっててもイライラカチンが、起きることで自分を責めるわけよ。それが、辛くなるっていうのがあるから、そんな簡単にはいかないね。人間だからね。それから職員が苦しむっていうのは、その人個人の責任でも本当はない。

苦しいってことは、やっぱりそれを支えられる職場じゃなかった、ってところを皆で考えなきゃいけない。何故それを皆に言えなかったのか?とか、その苦しい思いを受け止めてあげられなかったとかは職場の問題。

特にこういう職場で難しいのは、介護の質ってレベルが果てしなくある。

「ここの目標(ゴール)に向かって皆で頑張りましょう」っていう風に設定すると、この人もこの人もこの人もこの人も同じ目標じゃなきゃ駄目ってなる。だけど、こんなに苦しいことはないわけで。

だからそうじゃなくて、目指す方向はしっかり持ちながら、ここの職場の仕事が「どんなにどれ程楽しいか」って言う事は絶対に忘れちゃいけない。つまり、ここが居心地のいい職場にしないといけないっていうのは、皆で考えようっていう風にしてる。

言いたい事がちゃんと言えて、それを受け止めてくれる人達がいる、っていう事が大事だから。自分も言いたい事はちゃんと相手に言えて、だけどそこには技術も必要。自分の事を相手に伝えるには、ただ言えばいい訳じゃなくて、伝わるように伝えないといけないし、相手の事を考えて言わないといけない。だけどそれを受け止める方もちゃんと受け止めて、ちゃんと返してあげる。だからここの職場では思ったことは言っていいんだ、とか苦しいときは苦しいって言っていいんだ。そういう職場にしようね、っていうのは皆もそう思ってる



個々が力を発揮するために


仕事の目的を達するためにメンバーが選ばれたとしたら、全員がどうやったら力を発揮できるかっていう事は、私にとっての最大のミッションなわけよ。

10何人いたら全員が、苦しんでいる人も含めて、まだまだできない人も、凄いできる人も、いっぱいいるけど、それぞれが最大の力を発揮するためにはどうしたらいいかって考えている。








こちらの続きは、 ムサシノPeople interview vol.1 ②↓ へ


Youth Lab

1974年より、子どもたちの学習支援や不登校児童の居場所づくり、 若者の社会参加や就労支援を行ってきた、 文化学習協同ネットワーク(認定NPO)と若者たちが出会う人や世界について、 そして、若者たちが自分自身を再発見するための学びの時間について発信していきたいと思います。