なにをすればいいの?~若者達の悪戦苦闘~⑤【DTP集中訓練プログラム7期生報告集より/最終話】
『DTP集中訓練プログラム』とは?
この報告集は、厚生労働省の委託事業として実施している若年無業者等集中訓練プログラム(通称:集中訓練プログラム)の一環として制作されました。
このプログラムでは、地域若者サポートステーションに登録した若者が一定期間ともに活動し、コミュニケーションスキルを培ったり、生き方・働き方などについて模索しながら多様な学びを体験するものです。
今回は、この『DTP集中訓練プログラム』の第7期生の報告集※より、記事を一部抜粋し、5話連載でお送りします。
※「働くことへの不安や抵抗感」を感じる若者たちが、「将来に希望がありそうな気がする」と思えるようになった悪戦苦闘の日々や、若者たちが日ごろお世話になっている事業所の方々のインタビュー、OBたちの言葉が詰まった報告集は、現在『むさしの地域若者サポートステーション』にてご覧いただけます。
企業への不信感
思っていたのと違う!(いい意味で)
本企画のはじめ、テーマについての話し合いの中で、自分たちは人間関係を作ること維持していくことが苦手だったり、ちゃんと働いて役に立つことができるのかという不安があったりすることを確認し合った。ならばこうなったら働くことに不安も少し減るんじゃないか、というものを実際の仕事の現場に提案してみようということで、協同ネットが関係を作ってきた光陽メディアを訪ねた。
しかし私たちのいくつかの提案はすでに仕組みとして存在するものが殆どだった。例えば、交流会などの相手の人柄がわかるような仕組みがあれば良いのではないかと考え提案したところ、もうすでに飲み会以外の交流会みたいなものが導入されていた。さらに話を聞いてみて、社員教育の制度はとても良く感じた。特に良いと思ったのは教える側にも教育をしているところや、その日わからないことを聞ける人を決めているところで、誰に聞いていいか分からないときもあるし、教える側でもどうしたらいいかのアドバイスをもらえるのは良いのではと感じた。
こうした姿勢を持っている会社があるということは、もしかすると他にも工夫がされている会社があるのではないかと少し期待してしまう。企業に対して不安感・不信感を抱いていた私としては、少しでも安心できる材料になるのではないかと思った。
若者が働きやすい職場なんてない!(もしかしてそれは違うか?)
本企画に参加するまでは、仕事のやりがいのみを求め、私生活の充実より仕事を優先しなければならない働き方のイメージを持っていて、働くことに対して抵抗があった。
また社長という立場の人に対しても、ブラック企業で過労死やらサービス残業やらがあるなかで人を使いつぶす社長しかいないのではないか、社員一人一人の健康や生活のことなんて考えてくれていないのではないかと思っていた。
しかし、ネットワークに参加する企業の中には「仕事の中身だけでなく待遇も含めてトータルで見て若者が楽しいと思ってくれるか」というような言葉をかけてくれる社長もいた。どうやったら働きたいけど働けない若者が働けるようになるか、働きやすい職場を作るかを考えてくれている人たちがいるということを知れたのがとてもよかった。
企業と私個人ではなく、サポステを通して体験やその後のやり取りをしていくので、自分たちのことを分かってくれるという信頼感がもてる企業であれば働きやすいのではと感じた。不安や不信感がほんの少しだけ緩和したような気がすると感じたきっかけはこの出会いだったかもしれない。
柔軟に変化できる働き方
ワーカーズコープの取材では、協同労働という自分が知らなかった働き方を知ることができた。
協同労働は最初の出資金のハードルが高く、全会一致にもっていくまでの過程や、実際に試したりしながら話し合いをしていくのは多くのエネルギーが必要で、余程それがやりたいと思ってないと実現していくにはとても難しいのではないかと思う。
しかし話し合いを重視する点や自主的な発言や行動が否定されにくい環境づくりを目指している姿勢、上下関係が存在しにくいが故に自分から話しやすくなるのではないかという点は魅力的に感じた。また私は仕事は耐え忍ぶものなのではないかと思っているところも少しあったが、柔軟に職場環境を自分たちで変えていける場所もあるのだと思った。
僕が僕らしくいられる職場
サポステOBのMさんは「『~しなければいけない』と考えて自分で気負ってしまっていたものが、仕事でも楽しんでいいという方向に変わってきた。今までは楽しむチャンスを自分から遠ざけていたように思う」と前向きに考えていたので、とても驚いた。
本人の話では、『~しなければいけない』と考えて自分で気負ってしまっていると、その感情が子どもたちにも伝わってしまって、不安にさせてしまうということもあるが、やはり職場環境によるものがあるのではないかと語っていた。話を聞いていると、分からないことは気軽に聞けるようなコミュニケーションをとりやすい職場環境があるからポジティブな考えに至るのではないかと感じた。自分もいずれそういったポジティブな考え方ができるといいなと思った。
Nさんのインタビューで印象に残ったのは、ユースラボに入った経緯を聞いたときあまり不安や不信感はなく、集プロをやりつつユースラボのことを見る機会もあり内容を知ることが出来ていたということだったので、事前にどんな感じか知ることが不安を和らげることになるのかなと感じた。
二人のそれぞれの働き方に共通していることは二人共仕事が楽しいとのことだった、それが無理せず自分らしく働ける第一歩なのではないかと私は感じた。
アクション!
結論、「行動する」ということを最終的に考え、感じた。行動して知ってくことで不安や不信が緩和されていくのだと。
本当はこういう当たり前な答えを安易に出したくはなかった。誰もが言うことで自分も知っていることだ、とも思える。
最もこの結論を出したくなかった理由が、これを言ったところで、「じゃあ動けるのか?」と言うところで、この記事を書いている時でさえも、動けそうな気もするけど、いざ次の活動をしようか、となったとき足がすくむのではないだろうか、色々な不安が出てくるんじゃないだろうか、と不安な気持ちがわいてくる。
しかし今回この集中訓練プログラムに参加しなければこのような体験をすることが出来なかった、行動したからこそ今回この結果を導き出すことになったのではないかと思う。
そもそも企業への不信感だけでなく行動することへの不安や不信感みたいなものがあり、そこから企業への不信感に繋がっているのではないかと思った。
ちなみに「企業への不信感」もやはり不安や不信感を完全に払拭するのは難しい。
居場所から次のステップへ
一年近いプログラム
一年近い集中訓練プログラムの間、本当に多くの人たちにインタビューやアンケートといった形で話を聞いてきた。彼らの話を聞いたことで自分の中でも色々な変化が起きていると感じる。
集中訓練の仲間たち
最初に話を聞いたのは、集中訓練プログラムの仲間たちだ。今まで別のプログラムで顔を合わせたりすることも多く、互いに気心も知れた間柄。そう思っていた。テーマ決めの一環で自身の来歴や悩みについて、お互いに話し出すと、今まで知らなかった話が結構出てきた。年齢、居場所に繋がるまでの流れ、知らない話ばかりで、新しい発見も多かった。
知っているつもりになっていた事が、実は知らなくて、驚きが大きかった。もしかしたら私にとっての最初の変化はここかもしれない。まだまだ自分が知らないことがとても多いということが分かり、改めていろいろな話を聞いていこうという気持ちが出てきた。
少し先を歩いている人たち
企業やOBなどの居場所の外にいる人たちに取材を始めていくと、どんどん知らないことが出てきた。新しい話を聞けるのは怖いと楽しいが同居していたように思う。取材をしている間には、自身を省みることも多かった。
OBのMさんにインタビューしたとき聞いた、仕事でも楽しんでいいという話などは、自分にはなかった考えで、自然と頷きながらメモを取っていた。
また、続けることが大事というMさんの言葉は、一年までと決めてバイトを始めた自分の姿勢を省みるいい機会になった。一年で仕事を辞めると決めているのと、これからも仕事を続けていくという意識で働いているのでは、自然と仕事への取り組み方などで違いが出てくる。
OBのNさんにインタビューをした時には「社会に出ている人は意外と完璧ではない」「世の中は意外と適当に回っている」など体験を交えた興味深い話が多かった。
自分の中にある社会で働く人たちは仕事や、メールなどもきっちり仕上げていなければならないという勝手に作っていた思い込みについて、そこまで肩ひじ張らなくても大丈夫かもしれないと肩の力が少し抜けた気がした。
若者とかかわる社会
一方、サポステの協力企業である光栄商事の内田社長は、若者を長年受け入れた側から見た若者についての印象や、受け入れ方について話してくれた。
若者がなかなか自信を持てずに仕事を続けられない心の動きや、それを解決しようと日報などを工夫することで、何をすればいいのか、何ができるといいのか、そういった仕事を続けやすい環境作りを工夫していた。
また、内田社長は穏やかな調子で、こちらの質問についても丁寧に答えてくれていて、気になることを質問しやすい雰囲気だった。こんな風に対応してくれたら、質問もしやすいし、職場でも働きやすいのかもと感じられた。
光陽メディアには冊子制作にあたり、社員さんにフォトショップによる画像修正や、フォントの選び方などの研修や、工場見学も合わせて、何回もお世話になった。
昨年9月頃に、取材の為、初めて会社に訪問させていただいた時は、会社内の雰囲気を怖く感じて、社員さんに取材する際にも緊張し通しだった気がする。色々な会社の人に会っていった結果か、昨年12月に光陽メディアで、社員の方に冊子作成について教えてもらっていた頃には、大分緊張がほぐれていた。
少しずつ場や人に対して、理解し慣れていったのだと思う。光陽メディアでの研修では、本業とは少し違う自分たちへの指導に対してこころよく教えてくれた社員の方々の対応はありがたかった。
ワーカーズコープや就労ネットでは、いままでとは違う社会への入り方について、知ることが出来た。協同労働の考え方について興味を持って取材させていただいたワーカーズコープでは、仕事を創るために自分たちで出資をすることや、社員さんが経営者のひとりとして会社に参加するなどの話を聞いた時には、そんなこと出来るの?と感じた。
実際には、働き方を実現する為に定期的な話し合いや、個人の事情に配慮した形での仕事作りなど、いろいろな工夫を行っていることが分かった。
若者就労ネットワークの例会で取材をした際には、会社での体験から始める社会参加という形で、まずは体験から始めてみませんかという取り組みをしていると聞いた。働き始めること自体を怖く感じている人にとって、まずは体験してみようという試みは有効なのではないだろうかと考えた。また例会には様々な企業の方が来ていたが、私たちの話に対して真剣に聞いてくれ、言葉を返してくれた。世の中や、会社というものへの不安が少し薄れたように思う。
どこに話を聞きに取材に行っても、みんな真剣に話を聞いてくれたり、今までの自分が知らない社会参加の仕方を知ることが出来たりと、社会の中にはこんな人たちがいるのかと感じた。
お互いに分からないことを知る
取材を重ねていくうちに分かってきたのは、私たちが、社会に対してよく分からない場所と感じているのと同じくらい、社会も私たちをよく分からないのだろうということだ。
昔、光陽メディアで社員さんに若者への対応の仕方を聞かれたという、サポステスタッフの方の話は驚きだったし、他の場所でも若者が入りやすい方法などの勉強をしているという話も驚きだった。
そんな話を聞いたからか、当初よりも自分にとって社会あるいは会社という存在は理解できない存在ではなくなったように思う。若者が新しい場所に不安を感じるように、若者を受け入れる側も、不安や抵抗感を感じているのだと思うと、お互い様なのかもしれない。今回色んな方に話を聞く中で、心の中で大きくなりすぎている社会へのハードルを現実の大きさに近づけているように思う。
今、自分にとって雲の上のことと感じていた社会というものが、実はそこまで完璧で遠い場所ではなく、自分たちがいる居場所から繋がりをたどっていくことで、また入っていける所なのかもしれないと感じている。
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