ムサシノPeople interview番外編 feat.中道通り商店会 其の三
ムサシノPeople interview
私たちが暮らしている地域には、人や街を大切に思いながら日々活躍している方々がたくさんいらっしゃいます。協同ネットに集い活動している若者たちも、そういった地域の方々に日頃から大変お世話になっています。
そんな日頃お世話になっている地域の方々のこれまでの人生にフォーカスしたお話をお聞きすることで、再び出会い直し、たくさんの刺激を受け、人生について考え学びたい!そしてもっともっと知り合いになりたい!という、ちょっぴり図々しい連載企画です。
中道通り商店会コラボ企画 「茶話会 地域の人に出会おう!」
2020年のムサシノPeople interviewで、中道通り商店会会長の坂井さんへ若者がインタビューをしたご縁から、コロナ禍でイベント開催ができない中、武蔵野の地域で若者と地域のみなさんが出会う機会がつくれないか坂井さんに相談してきました。
今できることは「出会い、話すこと」。
そこで、定期的に中道通り商店会のみなさんをお招きし若者ともに茶話会を開くことで、商店会の人たちと出会い、価値観や視野を広げる機会にしていこう、そして、お互いに声を掛け合えるようなかかわりのきっかけにしたいよね、と2021年7月に第一回目を開催。
現在、2か月に一度のペースで開催しており、今後継続的にYouth Lab内にて『ムサシノPeople interview番外編 feat.中道通り商店会』 と銘打ち発信していきたいと思います。
吉祥寺中道通り商店会HP
ムサシノPeople interview番外編 feat.中道通り商店会 其の三
株式会社 atelier coin / アトリエ コワン
代表 大護 慎太郎 さん
ABOUT / atelier coin
代表である、大護慎太郎さんが、手作り腕時計の創設者、篠原康治氏に師事し、手作り腕時計ブランド、『JOIE INFINIE DESIGN』 を2003年より開始。2009年には、吉祥寺にて『atelier coin』をOPEN。2011年に『株式会社atelier coin』を設立し、2015年より『atelier coin』を吉祥寺中道通り商店街に移転されています。腕時計を軸に、時にまつわる作品を制作・販売しています。
若者
FKさん、Kさん、FJさん、Hさん、Oさん
中道通り商店会
会長 坂井さん
スタッフ
廣瀬、丸山
「覚悟」は気づいたら持てていた方がいいが、自分に言い聞かせてる。いつもいつも仕事のことを考え、覚悟を持ち続けるよう言い聞かせ続けている
中道通り商店会コラボ企画 『茶話会 地域の人に出会おう!其の三』中道通り商店会会長の坂井さんが同行し、株式会社atelier coin ( アトリエ コワン)代表の大護慎太郎さんにお越しいただきました。
美術大を出て直ぐ手作り時計のブランドを立ち上げた、職人であり、アーティストでもある大護さんのお話しを聞くということで、若者たちは「普段どんな環境で、どんな仕事をしているのか?」「好きなことを仕事にするのって実際はどんな気持ちなの?」など、興味津々。時計作りに関することから人生観について沢山の質問が出ましたが、どの質問に対しても一つ一つ丁寧に応えていただきました。
「どんな人と働きたいですか?」という質問に「続けられる人がいい、うまい人ほど飽きてしまう。不器用ない人でも、繰り返し挑戦してやり続けられる人の方が向いているかもしれない」職人は「器用さ」よりも「続けられることが大切」という大護さんのお話しに若者たちは小さな衝撃を受けます。大護さんは学生時代、人間国宝の職人さんなど、沢山の職人さんの工房を訪ね歩いたといいます。
「職人」=「スペシャリスト」というイメージの若者たちに対して、「職人にそんなにスペシャリストはいない。(スペシャリストとしてよりも)生きざまはリスペクトしていったほうが良いとは思う。続けてきた、繋いできたその人の意味はあると思う。技術を継承することの大変さを理解し、その生き様を大切にしたほうがいいと思う」大護さんの言葉からはものづくりの仕事に対する大切な視点を教えていただように思います。
職人さんの世界は厳しいイメージがあり「打たれ強くなるにはどうしていけばいい?」「産みの苦しみはありますか?」「続けられるのは何故?」という質問が若者たちが多く聞かれます。それに対して「仕事をすることに対して、覚悟はもったほうがいいと思う。時計作りの場合は、中途半端な仕事を、沢山の工程の中、何千何万の工程の中で減らしていく」「売れないとゴミになってしまう。出す以上は、その責任を持っている」「辞めないだけ。なんでもいいからやり続けることが重要。『覚悟」は気づいたら持てていた方がいいが、自分に言い聞かせてる。いつもいつも仕事のことを考え、覚悟を持ち続けるよう言い聞かせ続けている」という大護さんの言葉の数々に職人としての重みを感じます。
「好きなことを仕事にする楽しみや喜び」については、「楽しいのは時計はつけてくれるもの。タスマニアの方が海外でその後も付け続けている。メンテナンス上、関わり続けることができること」「時計をそれぞれ買ってくれたカップルが、その後結婚してリングを買ってくれて・・・その人の人生も垣間見えるのが楽しい」「お店を開けている良さは、お店に誰か来てくれる、誰かと関われる良さ。そのこと自体で、この仕事に大変さがあったとしても耐えられる」「時計、アクセサリーなど、長く携わるもの。相棒になるものをつくる喜び」と語ってくれました。
若者たちには「(人生の)レールから外れることへの不安」や「レールに戻らなければ」という感覚が根強くあります。そこで「何か会社に入ってというレールにのらない、自分で会社を立ち上げることへの不安はありますか?」という質問も出ました。
それに対しては「ずっと不安がある。常に不安がある。自分の作品は否定されたらどうしようと常に不安。表裏一体です」「子どものランドセルを『時計を売ったお金で買ったんだ』と、いまだによくやってるな・・・と思うほど不安に感じる」と飾らない言葉で語っていただきました。
アーティストであり職人でもあるという大護さんに対し若者たちは羨望のまなざしでお話を聴いていました。しかしそういう方であっても不安は常に感じながら仕事をしていること。そして、不安の中仕事へ向かう「覚悟」というものは最初からもてているものではなくて、常に意識しながら日々の仕事に真摯に向き合い『続けている』こと。その丁寧な一日一日を『続ける』ことの延長線上に今があること。大護さんの語りは、みんなの心に深く響きます。
「職人さんに、そんなにスペシャリストはいない。(スペシャリストとしてよりも)生きざまはリスペクトしていったほうが良いとは思う」
大護さん、坂井さん、今回もステキな時間を有難うございました!!
atelier coin(アトリエコワン) 大護さんのお話しを聞いて
若者感想
●ご自身でブランドを立ち上げて個展を開かれていらっしゃったり、雑誌に掲載されているようなお洒落な時計屋さんを経営されていらっしゃったりしていて、一体どんな経緯をお持ちの方なのだろうと興味津々でした。家族や親戚に芸術系のお仕事をされている方が多く、そういう生き方があまり特殊ではなかった事や、小さい頃から細かい作業が得意で時計が好きだった事、職人さんの元で作るよりは自分で作りたいと思った事など、経緯を詳しくお伺いできてよかったです。
お話を伺う中で、大護さんはご自身のやりたい事に、真摯に向き合い続けてこられた方なのだという事がよくわかりました。大護さんご自身も、ずっと続けていくという事を大切にされていて、「何事においてもできるだけ早く始めて、できるだけ長く続けたい」とおっしゃっていたのが印象的でした。「たとえ仕事に伸び悩んで転職したとしても、結局同じ所でつまづくだろうから、それなら今の仕事を続けていた方がさらに先の景色を見られると思う」ともおっしゃっていて、その言葉がとても心に響きました。
それから「仕事は少し特殊だけど、普通の暮らしをしていきたいと思っている。家族や職場のみんなが普通に暮らしていくためには、どうすればいいか考えながら日々仕事をしている」とおっしゃっていて、普通の暮らしを維持するための努力と、不安を抱えながらも創意工夫を凝らし続ける覚悟が必要なのだと思いました。けれどそうした苦労もありながら、自分の仕事や時計を評価してくれる方や、買ってくれる方がいるのはとても嬉しいし、やりがいに繋がるともお話されていました。
大変な事と向き合いながらも、好きな事をずっと仕事にし続けている大護さんは本当にすごいと思いましたし、それら全て含めて今の仕事が好きだとおっしゃられているのをきいて、尊敬しました。自分もいつか、自分の仕事に対してそのように思えるようになりたいと思いました。
●「好きな事が出来ていれば、他で別の事をしていても気にならい」という大護さんの言葉が、一番強く私の内に残っています。大護さんにとって一番好きな時計作りが出来れば、生活のために他の仕事(アルバイト等)をしていても構わないという事。「好きな事で食べていけなければ失敗」という一般的な感覚に飲み込まれず、ご自身の価値観をしっかりと持ち働く事と向き合ってこられたのだと感じました。だからこそ、誇りを持って仕事を続けていけるのだとも感じました。
私は今、自分にとって働くという事の意味を見失っています。大護さんの言葉を聞き、誰かの価値観で働く意味を探していたのではないか、だからいつまでたってもモヤモヤとはっきりしないのではと気が付きました。
今から自分自身の価値観を作っていけるのか、手遅れではないかと怖くなりますが、とても大切な事と向き合うきっかけになる茶話会でした。
●時計のお話を聞いて、私自身の腕時計遍歴を振り返っていました。どれもそれぞれ思い出があるので、大護さん達が作る時計も誰かの思い出になってるんだと思うと、自分が作ったものが誰かの一部になるって素敵なお仕事だなと思いました。
また、私たちと同じように不安を抱えながらも覚悟を持って働き、表現し続けていらっしゃる姿に感銘を受けました。素敵なお話をありがとうございました。
●「作る」と言うことに興味があり話を聞きたいと思いました。緊張して上手く質問できるか不安でしたが、大護さんが話しやすい方で、安心してお話を伺うことができました。職人さんの世界を僕たちにとってもわかりやすい言葉で、同じ目線で語ってくれ、納得してしまう内容でした。
●今回話を伺う大護さんは、時計の職人さんという事で、自分にはあまり馴染みの無いお仕事で、未知の世界でした。時間を知る手段として時計を使わない生活を送る現代人にとって時計の存在は薄く、また、アンティークの時計と普通の時計って何が違うんだろう?時計を作る人や買う人は、どういう魅力を感じているのだろう?という疑問がありました。そして、私の中の職人の世界というと、なんとなく厳しい上下関係、手先が器用な人達しかなれない、プライドが高い、成功できるのは一握りの人だけ、という印象が強い世界でした。
実際にお会いした大護さんは、当初自身がイメージしていた職人さんとは異なり、とても親しみやすい方で、こちらの投げかける質問に快く答えて下さいました。お話の中でいくつか心に残るエピソードがありましたが、一番衝撃的だったのが、職人さん=手先が器用な人ではないという話。結局はその人がこの仕事を長く続けられるかどうかであって、手先の器用さは実はあまり関係が無いという事や、逆に器用な人程飽きてしまうという話は凄く納得できました。
また、年功序列のある世界ではあるものの、自身と違う年代の人とも積極的に話し合いを通じて相互理解を深めたり、相手の価値観を尊重する姿勢に感銘を受けました。それから、この仕事を続けられている理由については、最初は自分が辞めなかっただけと話しておられましたが、お話を聞いていく中で、このお仕事への情熱や、お客さんとの繋がりというものをとても大切にされている事が伺い知れたし、何よりもこの仕事が本当に好きなんだなぁと感じました。
今の仕事で生活できないのなら、バイトを増やせば続けられる、という話にはその日一番に驚きました(笑)。そして、一途にお仕事を続けられる強さの裏に、世間からの風当たりや、作品を生む苦しみ、それらを乗り越えていく秘策等を伺い、やっぱり同じ人間として悩む事もあるし、元気が出ない時はお腹が空くもんなんだと、共感するお話もありました。最後に、今回対談させて頂いた感想としては、自分の知らない、アンティーク時計の世界を知る事が出来てとても楽しかったですし、自分の中で想像していたよりも遥かに生き生きとした職人さん像を伺い知る事が出来ました。というより、職人さんではなく、アーティストさんと言う方が正しいのかも。
この対談の後日、数人のメンバーと共に実際にお店へお邪魔しましたが、実物の時計や古道具ならではの味や良さを体感出来ましたし、そこでも色々とお話もさせて頂きましたが、レトロな雰囲気のある内装からもこだわりを感じ、とても素敵な空間でした。中道通りは普段は帰り道をただ通り過ぎるだけでしたが、今回の出会いがきっかけで素敵な世界を知る事が出来て、とても貴重な経験が出来て良かったです。
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